網膜裂孔・網膜剥離

網膜と硝子体とは?

網膜と硝子体とは?

「硝子体」は卵の白身のような透明なゼリー状の組織で、そのほとんどは水分でできています。そして光が最後に届くのが目の中の「網膜」という膜です。ここはカメラで言う“フィルム”の役目をしており、網膜に光が当たると電気信号に変換し、目の神経(視神経)を通して脳へ伝わります。こうして人はものを見ることができるのです。

後部硝子体剥離と飛蚊症とは

後部硝子体剥離と飛蚊症とは

硝子体は眼内を満たしており、網膜に接しています。しかし、硝子体は加齢とともに次第に縮んでいき、網膜から外れていきます。これを「後部硝子体剥離」といいます。老化とともに起こりやすくなりますが、特に近視の人は早い段階から始まります。また、この後部硝子体剥離に伴い、硝子体中に“にごり”が生じ、光の通りを妨げます。ゼリー状の硝子体にできたにごりは、目の動きとともに漂うようになり、輪のようなものやアメーバ状のもの、糸くずのようなものが見えるようになります。これがいわゆる「飛蚊症」です。後部硝子体剥離がまだ起こっていない人でも硝子体ににごりがある人もいて、飛蚊症を訴える方もいます。これらは問題なく、様子を見てよい飛蚊症で、「生理的飛蚊症」といいます。
しかし、飛蚊症の中には病気によって起こる飛蚊症もあり、放置すると失明に繋がる病気もあるため、飛蚊症がある場合は必ず眼科での精密検査を受けましょう。

☆ 特に注意すべき飛蚊症の特徴

  • 「光視症(光が走る)」を伴う
  • 日に日に飛ぶのが増えてくる
  • 墨汁を流したように見える
  • 視野の一部が欠けてきた

「光視症」とは、明るいところでも暗いところでも、突然光がピカッと光ったように見える症状のことで、網膜裂孔が起こりやすいサインの可能性があります。
また、飛蚊症が悪化する場合や赤や黒の墨汁を流したように見える飛蚊症の場合、眼内で出血が起きている可能性があります。
そして、視野の一部がかけてきた場合も、出血によって見えなくなっていたり、すでに網膜剥離を発症している可能性があります。

光視症とは

通常、ヒトは目の外から入ってきた光が網膜に当たると、光を感知し、変換された電気信号が視神経を通して脳に伝わることで、光を認識します(図1)。
一方、光を見ていないのに突然光がピカピカ・キラキラした光の点滅や稲妻のような光が見えることを「光視症」といいます。これは網膜、視神経、脳のいずれかの場所で刺激が加わった際に、脳が光を見ていると錯覚してしまうことで起こります。原因として特に多いのは、後部硝子体剥離に伴うものです。硝子体が縮んで網膜から外れてくる際に、網膜との接着が強いと、網膜を引っ張ります。その刺激が電気信号として脳へ伝わり、光が見えてしまうのです(図2)。そのため、光視症は網膜が引っ張られているサインの可能性があり、網膜裂孔や網膜剥離に注意が必要です。

光視症とは

網膜裂孔と網膜円孔とは?

網膜「裂孔」は、後部硝子体剥離に伴って、硝子体によって引っ張られた網膜に裂け目ができてしまうことが原因です。そのため、加齢とともに後部硝子体剥離が生じてくる、40−50歳代の中高年に多く発症します。
一方、網膜「円孔」は、網膜の一部が引き伸ばされて薄くなり、弱くなっている部分(格子状変性)を元々持っている体質の方に起こり、その部分に自然と穴があいてしまうことが原因です。これは10−20歳代の若年者にも起こります。

あいた穴から網膜の成分(網膜色素)が硝子体中に散ったり、穴があく際に出血した場合には、飛蚊症として自覚することがあります。そのため、飛蚊症に気付いた場合には、眼科での検査が必要です。しかし、網膜に穴があいても痛みはなく、無症状のことも多いため、眼科での眼底検査で偶然見つかったり、網膜剥離へ進行して初めて気付くこともあります。

網膜剥離とは?

目の中の壁から網膜が剥がれてしまう病気のことを総称して「網膜剥離」と呼びます。網膜はカメラでいうところのフィルムの役目をしており、見るという機能にとって最も重要な部分です。その網膜が剥がれた状態のままでいると、モノを見るために必要な細胞(視細胞)が死滅していくため、視力がどんどん下がってしまい、最終的には失明に至ることが多いです。
網膜剥離は以下のように、大きく分けて3つに分類されます。

裂孔原性網膜剥離

一般的に“網膜剥離”と呼ばれているのがこのタイプ。前述の裂孔や円孔が自然発生して起こるものや目をぶつけたことで裂孔ができる「外傷性」と呼ばれるものなどが含まれます。

牽引性網膜剥離

網膜が引っ張られることで剥がれたタイプ。増殖膜という網膜を引っ張る膜が生えてくる病気に起こるもので、代表的な病気には糖尿病網膜症があります。

漿液性網膜剥離

炎症などによって水漏れが生じ、網膜下に水たまりが溜まって剥がれるタイプ。代表的な病気にはぶどう膜炎(原田病)や転移性腫瘍などがあります。

※ その他、特殊な網膜剥離のタイプとして、黄斑円孔網膜剥離(強い近視の女性に多く、黄斑円孔に伴うもの)、アトピーに伴う鋸状縁断裂(アトピーによる慢性的な炎症や目の周りへの叩打に伴うもの)、未熟児網膜症、全身疾患に伴うタイプなどがあります。

最も頻度が高い網膜剥離である「裂孔原性網膜剥離」について説明します。後部硝子体剥離が起こる際、硝子体は収縮するとともに、液化(プルプルとしたゼリー状からサラサラな液体へ変化すること)が起こります。そのため、網膜裂孔や網膜円孔が生じると、その穴を通して、網膜下へ液化した硝子体が入り込み、網膜が剥がれていきます。これが裂孔原性網膜剥離です。網膜が剥がれると、視細胞に栄養が届かなくなりどんどん死滅していき、時間が経つほど失明に向かってしまうため、早急な治療を要します。

漿液性網膜剥離
漿液性網膜剥離

検査方法は?

1視力や眼圧検査などの一般検査

視力が下がっていないか、眼圧が上がったり下がったりしていないかなど、一般的によく行われる検査を行います。網膜剥離が進行し、黄斑が剥がれると視力が下がります。また、網膜剥離に伴って、眼圧(目の固さ)が上がることも下がることもあります。

2細隙灯顕微鏡検査

網膜裂孔があると硝子体中に網膜の成分(色素)が飛散するため、この検査による硝子体の観察は診断の一助になります。また、白内障の有無なども治療方針を決める上で重要です。

3眼底検査

網膜円孔・裂孔や網膜剥離の診断で最も重要な検査です。眼内の隅々まで観察することにより、網膜裂孔の有無、位置や数、網膜剥離の有無やその範囲などを把握します。この検査に寄って治療方針が決まります。

4光干渉断層計(OCT)

網膜の断層画像を撮影する検査で、後部硝子体剥離が起こっているのか、網膜剥離が黄斑部まで進行しているのかどうかを調べることができます。この検査も治療方針の決定に大切です。

5蛍光眼底造影検査

腕の血管から造影剤を注射して、目の奥の血管や網膜の写真を撮ることにより、血の巡りや炎症、水漏れなどがないかを調べる検査です。特に滲出性網膜剥離に対しては、原因を調べるために必要となります。

各検査の詳細は「診療について」ページへ

治療は?

眼底検査で網膜裂孔・円孔が見つかった場合、最も重要なのは網膜剥離を伴っているかどうかです。もし、まだ網膜剥離を伴っていない場合、「網膜光凝固術」(詳細は「網膜光凝固術」のページ)を行います。これは穴の周りをレーザーによって焼き固めることにより、眼内の液化した硝子体が穴に入り込んでこないようにする治療です。レーザーを行っても、穴が閉じるわけではなく、あくまで水が入り込まないように防波堤を作る治療のため、100%網膜剥離へ進行しないわけではありませんが、進行する可能性を減らすことができます。しかし、レーザーを行ってからしっかり固まるまでは約1ヶ月程度かかるため、その間は特に網膜剥離へ進行しないか慎重に経過を見る必要があります。
また、すでに網膜剥離を伴っていても、その範囲が非常に狭く、限られた部分であれば、その剥がれている範囲の外側を囲むようにレーザーすることで、それ以上の進行を防ぐことができる可能性があります。しかし、レーザーしても進行してしまう場合は、網膜剥離に対する手術が必要になります。
網膜剥離に対する手術には、主に2種類の方法があります。まず1つ目は、目の中から剥がれた網膜を元に戻す「硝子体手術」(詳細は「硝子体手術」のページ)、そして2つ目は、目の外側にバンドを巻いて、眼球を凹ませることによって網膜をくっつける「網膜復位術」があります。それぞれメリットとデメリットがあるため、年齢、後部硝子体剥離の有無、白内障の有無、穴の位置と数、網膜剥離の範囲などを考慮して、手術方法を決めます。

治療は?