糖尿病網膜症

糖尿病とは?

血中のぶどう糖(血糖)が増える病気で、自覚症状が現れにくく、次第に全身の血管が傷んでいきます。
私達の身体は、食事をして血糖値(血中のぶどう糖の量)が上がると、膵(すい)臓から“インスリン”というホルモンが分泌されます。このインスリンがぶどう糖を細胞へ取り込むことによって、細胞では糖をエネルギーとして使うことができ、血糖値は一定に保たれるようになります。

正常

正常
しかし、

1インスリンがうまく作られない

2インスリンがうまく働かない(インスリン抵抗性)

これらの場合、ぶどう糖を細胞に取り込むことができず、血糖値は上がってしまいます。これが「糖尿病」です。

糖尿病

1インスリンがうまく作られない

インスリンがうまく作られない

2インスリンがあってもうまく働かない

インスリンがあってもうまく働かない
糖尿病では高血糖によって活性酸素が作られ、血管が詰まったり、傷つくなど、血管がいたんでしまいます。無症状のまま、数年から数十年かけて、じわじわと血管がつながる臓器をおかしていき、大きな血管が傷害されると、心筋梗塞や狭心症、脳梗塞、足壊疽(えそ)といった合併症が起こります。また、細い血管が傷害されると腎症によって透析が必要になったり、神経障害によるしびれ、そして失明の原因となる糖尿病網膜症をきたします。
血管がいたむ

大血管障害

・心筋梗塞、狭心症
・脳梗塞
・足壊疽(えそ)

細小血管障害

・腎症
・神経障害
糖尿病網膜症

疫学

『糖尿病=国民病』

糖尿病=国民病

推定糖尿病患者 : 約2000万人

ー 糖尿病が強く疑われる人:1,000万人
ー 糖尿病の可能性を否定できない人1,000万人
ー 糖尿病が疑われる人の約3割は未治療
男女いずれも年齢とともに増加

糖尿病網膜症とは?

疫学

まさに国民病と呼べるほど、非常に多くの方が糖尿病にかかっています。そして、糖尿病の怖いところは、無症状のまま、様々な合併症をきたしてしまうことです。糖尿病網膜症は3大合併症(腎症、神経症、糖尿病網膜症)の一つで、1年間で25人に1人が網膜症を発症します。また、糖尿病患者の5人に1人が糖尿病網膜症を有していると言われています。血糖値や糖尿病の罹病期間などが網膜症の進行に強く関連していることが分かっており、特に、糖尿病になってから5〜10年程度で網膜症を発症しやすくなるといわれています。
疫学
日本における中途失明原因

分類と症状とは?

糖尿病網膜症はその進行の程度によって様々な分類方法があります。主に使われている病期分類では、血管が弱くなる段階の「単純網膜症初期)」、毛細血管が詰まってしまう段階の「前増殖網膜症中期)」、そして新生血管という悪い血管が出現し、最悪の場合失明に至ってしまう「増殖網膜症末期)」と進行していきます。 また、血管が弱くなると、血管に瘤(毛細血管瘤)ができたり、血管から水分が漏れ出てしまうようになることで、視力に最も大事な部分(黄斑)がむくんでしまう「黄斑浮腫おうはんふしゅ)」という状態になることがあります。黄斑浮腫が起こると、視力が急激に落ちてしまったり、歪みを感じるようになります。これは初期から末期までどの段階でも起こりえます。 糖尿病網膜症の怖いところは、たとえ出血していたとしても症状がないことが多く、無症状のまま進行してしまうため、見えづらいなどの症状が出たときにはすでに失明寸前ということがあることです。そのため、症状がなくても眼科での定期検査が必要です。

病期分類

病期分類

これまで述べてきたように、糖尿病網膜症は無症状のまま発症し、気づかないうちに失明へ向かっていく病気のため、
「早期発見・早期治療」が非常に重要です。

そこで近年注目されている検査機器が光干渉断層血管撮影(OCTA)です。これまで目の中の血流の状態を調べるには、造影剤という薬剤を用いた検査をするしかありませんでした。しかし、造影剤には重大な副作用(アナフィラキシー)が出る危険性があり、頻繁に行うことができませんでした。そこで登場したOCTAという機器は、身体に負担をかけることなく、短時間で目の中の血流の状態を調べることができる画期的な検査機器です。比較的新しい機器ですが、当院ではこの検査を行うことが可能です。

このOCTAを用いると、これまで確認することができなかった糖尿病網膜症の極めて初期の兆候を捉えることができます。

OCTA

私はこのOCTAの有用性に着目し、「前増殖網膜症から増殖網膜症への進行をいち早く診断する方法」を発見しました。 その研究成果を2018年に日本眼科学会総会で発表したところ、高く評価され、翌年2019年に開催されたGlobal Ocular Inflammation Workshops(GOIW 2019)に招待され、眼科医向けの教育セミナーで指名講演をさせていただきました。
また、この成果は論文として、Investigative Ophthalmology & Visual Science(IOVS)という米国の権威ある国際雑誌に掲載されました。
詳しく知りたい方は、下記のURLを参照にしてください。

院長の論文
Shimouchi A, et al. A Proposed Classification of Intraretinal Microvascular Abnormalities in Diabetic Retinopathy Following Panretinal Photocoagulation.
Invest Ophthalmol Vis Sci. 2020 Mar;61(3): 34
(https://iovs.arvojournals.org/article.aspx?articleid=2763448)

眼科への望ましい定期検査の頻度

糖尿病と診断されたら

糖尿病と診断されたら
※ あくまで目安です。目の状態や血糖値の状態などにより、個別に受診間隔を考える必要があります。

新生血管とは?

糖尿病網膜症では、網膜(カメラのフィルムにあたる部分で、人がモノを見ている部分)の血管が詰まっていきます。そうすると、網膜へ酸素や栄養が行き渡らなくなり、欠乏状態になります。それに対して、網膜は血の巡りが悪くなった部分からVEGF(血管内皮増殖因子)という物質を作り出し、VEGFを元に新しい血管(新生血管)を生やすことで酸素や栄養を取り込もうとします。しかし、この新生血管は苦し紛れに作った幼弱な血管であり、破れやすいため、容易に眼内出血(硝子体出血)を引き起こします。また、新生血管を足場として増殖膜という膜が張ってきて網膜を引っ張ったり(網膜剥離)、新生血管が目の中の水の循環を妨げたりすること(血管新生緑内障)によって、最終的に失明に至ります。
新生血管とは?
糖尿病網膜症の進行率(軽症から重症へ)

糖尿病黄斑浮腫とは?

「網膜」という膜はカメラで言う“フィルム”の役目をしており、網膜に光が当たると電気信号に変換し、目の神経(視神経)を通して脳へ伝わります。こうして人はものを見ることができるのです。その網膜の中で最も視力にとって大事な部分を「黄斑」と呼び、唯一視力が1.0出る部分です。糖尿病網膜症では、血管が弱くなることに加えて、前述のVEGFによる作用や毛細血管瘤などにより、血管から血液成分が漏れ出てしまい(血管透過性亢進)、黄斑部がむくんでしまうことがあります。これが「糖尿病黄斑浮腫」です。症状としては、視力が急激に落ちてしまったり、歪みを感じるようになり、これは初期から末期までどの段階でも起こりえます。診断には、網膜の断層写真を撮影することができる光干渉断層計(OCT)が有用です。
糖尿病黄斑浮腫とは?

検査方法は?

1視力や眼圧検査などの一般検査

視力が下がっていないか、緑内障の疑いがないかなど、一般的によく行われる検査を行います。

2細隙灯顕微鏡検査

糖尿病に伴って起こる合併症は糖尿病網膜症以外にも様々なもの(角膜障害、虹彩炎、白内障、外眼筋麻痺など)があり、この検査で診断することができるものもあります。

3眼底検査

糖尿病網膜症の検査で最も大切な検査です。目薬を使用して、目の中を観察し、眼底出血などがないかを観察します。

4光干渉断層計(OCT)

網膜の断層画像を撮影する検査で、糖尿病黄斑浮腫の有無やその程度、緑内障の兆候がないかなどを調べることができ、痛みもなく、非常に短時間で繰り返し検査することができる非常に有用な検査です。

5蛍光眼底造影検査

腕の血管から造影剤を注射して、目の奥の血管や網膜の写真を撮ることにより、血の巡りを調べる検査です。血管が詰まっているところや、新生血管の有無、水漏れが起こってしまっている場所などを調べることができ、進行の程度や治療方針を決めるために行われる検査です。造影剤による副作用に注意が必要です。

6 光干渉断層血管撮影(OCTA)

造影剤を用いずに目の奥の血管の状態を調べることができる、新しい検査法です。身体に負担をかけずに、繰り返し血の巡りを調べることができるため、非常に有用です。糖尿病網膜症の極初期に起こる微細な変化を発見することもできます。

各検査の詳細は「診療について」ページへ

治療は?

治療は?

各治療の詳細は「治療について」ページへ

当院では

院長は旭川医大で糖尿病網膜症外来を担当

院長は旭川医大で「糖尿病網膜症外来」という専門外来を担当し、専門的な診断や治療を求めて全道各地からご紹介いただく患者さんを数多く診てきました。その長年の経験を当院でも活かして診療を行っています。

大学病院水準の医療機器と経験で早期診断

糖尿病網膜症は無症状のまま進行し、血管が詰まってしまうほど進行してしまうと元に戻らず、治療をしても下がった視力の回復には限界があります。そのため、糖尿病網膜症は発症や進行をいち早く診断することが重要です。当院では、大学病院と同水準の医療機器を揃えており、近年特に注目されているOCTAも完備しています。

低侵襲レーザーと即日対応の注射で治療

当院では傷みが出にくい低侵襲なレーザー機器を完備しております。また、注射による治療が必要な患者さんには、ご希望に併せて、即日対応可能です。可能な限り患者さんに負担が少ない、優しい医療を提供します(※治療前後は経過観察が必要です)。